いずれ、「促進」を超えて、マイナンバーカードの作成が事実上義務化されるものと思われますが、後見制度から見たとき、マイナンバーカードの義務化は、いくつもの問題を抱えていると思います。
今回は、私が、実際に被保佐人のマイナンバーカードを取得した経験について語ることで、義務化をするなら、もう少し簡単にマイナンバーカードが取得できるようにすべきではないかという問題提起をしたいと思います。
今回話に出てくる被保佐人は、アパートで、一人暮らしをしています。
今回の話のポイントは、一人暮らしであり、マイナンバーカードの取得に協力できる親族が近くにいないということです。
同居の親族がいると、話はだいぶ変わってきます。
今回、マイナンバーカードを取得する方は、被保佐人で、それなりの判断能力を有しています。
その被保佐人が、マイナンバーカードを取得したいと言ってきました。
何度も電話をかけてきて、重ねて取得を希望していたので、同機はよくわかりませんが、マイナンバーカードを取得したいという強い気持ちがあるようです。
マイナンバーカードの申請は、交付申請することからスタートします。
交付申請自体は代理人でもできるので、そう難しくはありません。
一つ問題があるとすれば、申請書に写真を添付する必要があることです。
状況によっては、写真を用意するのが困難です。
スマホで写真が撮れるので、何とかなるといえばなりますが。
本件の場合、被保佐人が写真を持っていました。
以前、手帳の更新の際に使ったものの余りがあったようです。
なお、保佐人の場合、マイナンバーに関する手続きの代理権がない場合には、手続きができませんので、注意が必要です。
交付申請をすると、交付通知書が届きます。
まず、一つ目の関門は、この交付通知書になります。
代理人が申請した場合でも、交付通知書は、ご本人(被保佐人)のところに届きます。
ここで、冒頭に記載した、「被保佐人がアパートで一人暮らしをしている」ということが問題となります。
交付通知書は代理人のところには届かず、一人暮らしのご本人のところに届きます。
ご本人に認知症や精神障害がある場合、郵便物の管理ができない場合が少なくありません。
せっかく、ご本人のところに交付通知書が届いても、ご本人がそれを捨ててしまったり、どこかにしまって所在が分からなくなる場合があるのです。
この件に限らず、ご本人宛に大事な郵便物が届くときは、注意が必要になります。
同居の親族がいれば、ご親族が受け取って管理すればよいので、このような問題は生じないのですが、一人暮らしの被後見人等がいる場合、郵便物の問題は非常に重要かつ難しい問題となります。
そもそも、マイナンバー関連の手続きについて代理権のある保佐人が、代理人としてマイナンバーカードの交付通知書を受け取ることができないことは納得ができません。
今回は、やや特殊な流れになりました。
私が書いた申請書が市役所から戻されたのです。
市役所に問い合わせると、被保佐人自身がすでに申請を行っていたとのことでした。
被保佐人は自分のところに届いた交付通知書をなくしてしまったうえに、自分自身ですでに申請をしていることを失念していたのです。
市役所と話して、交付通知書を再送してもらえることになりました。
しかし...。
当然と言えば当然ですが、交付通知書の送付先は被保佐人ご本人のご自宅になります。
このような場合の取得方法としては、ヘルパーさんに郵便物をチェックしてもらう等の方法が考えられますが本件ではヘルパーさんは毎日来るわけではありません。
仕方ないので、保佐人である私が、郵便物が届きそうな日に自宅を訪れ、交付通知書(市からの郵便物)を回収することにしました。
市役所では、何日に送付するということを教えてくれたので、その2日後に被保佐人の自宅へ行くことにしました。
その日は回収できませんでした。
次の日の夕方に再度自宅を訪問し、何とか、交付通知書を回収。
ようやく次の段階に進めます。
次は、交付通知書を持って、市役所に行き、マイナンバーカードを取得することになります。
マイナンバーカードの受け取りは、原則、本人しかできません。
例外として、
ご本人が病気、身体の障がいその他のやむを得ない事情により、交付場所にお越しいただくことが難しい場合に限り、代理人にカードの受け取りを委任することができます。
となっています。
市の説明では、コロナ渦であることもあり、保佐人であれば、代理人として取りに行くことができるようでした。
もっとも、市町村によって運用が違うだろうし、コロナが収まってきたら、どのような扱いになるのか不明です。
いずれにしても、被保佐人が自力で市役所に行くのは困難なので、もし、代理人が受け取りに行くのが難しいという場合には、本人に同行して市役所に行く必要がありそうです。
もっとも、本人に同行して取りに行くのは口でいうほど簡単ではありません。
とりあえず本件では、代理人が取りに行ってもよいということになったので、保佐人である私が取りに行くことになりました。
しかし、マイナンバー関連の手続きについて代理権のある保佐人が、代理人としてマイナンバーカードを受け取ることができない場合があることは、納得ができません。
次の課題は、被保佐人自身の本人確認書類が必要であることです。
具体的には、障碍者手帳とか各種保険証類が本人確認書類にあたります。
これをご本人から借りて、受け取り時に提示し、またご本人に帰しに行かなくてはなりません。
手帳や保険証類は、いつも携帯しておく必要があるわけではないかもしれませんが、長く預かっておくわけにはいかないので、借りて、マイナンバーカードを受け取り、またできるだけ早く返しにいかなくてはなりません。
マイナンバーに関する手続きについての代理権のある保佐人が、ご本人に代わりマイナンバーカードを取得するのに、このような手間がかかるのは、やはり、納得ができません。
本件では、顔写真付きの本人確認書類である障がい者手帳があり、すんなりと手帳を貸してもらえたので、思ったよりはスムーズでした。
そしていよいよ市役所に行くのですが、マイナンバーカードを受け取るには、かなりの時間がかかりました。
これは、後見に特有の問題ではないので、特に触れることはしませんが。
このように、被後見人等(被保佐人含む)のマイナンバーカードを取得するのは非常に手間がかかります。
今回、被保佐人自身がカードの発行を強く希望したので、カードの交付手続きを行いましたが、ご本人が望む等の事情がない限り、このような手間がかかることを行うことはしないでしょう。
マイナンバーカードの取得が義務でなければ(任意であれば)、このような手間がかかってもやむを得ない面があるかもしれません。
しかし、マイナンバーカードの取得が義務付けられたり、例えば、医療費が高くなるなど、マイナンバーカードを持たないことで不利益を被ることがあるのであれば、被後見人等がカードを取得しやすくなるように、運用を変えなくてはならないはずです。
現状は、義務付けるには、あまりに手続きが困難すぎます。
被後見人等につき、マイナンバーカードを取得しやすくするのは、非常に簡単なはずです。
交付通知書やマイナンバーカードの受け取りを含む、マイナンバーカード関連の手続きを、後見人等でもできるように、規則や運用を変えればいいだけだからです。
それができないのであれば、マイナンバーカードの義務付け事態をやめるか、被後見人等については義務化の対象から外す等の運用が必要ではないでしょうか。